「肩が上がらない」「夜、痛みで目が覚める」——。そんな「五十肩」の悩みに対し、かつては「放っておけばそのうち治る」と言われてきました。しかし、2026年現在の最新医学において、その常識は過去のものとなっています。
本記事では、最新のエビデンスに基づいた「五十肩(肩関節周囲炎/凍結肩)」の病期別マネジメントについて、専門的な知見を分かりやすく解説します。なぜ治療が必要なのか、最新の治療法にはどのような選択肢があるのか。あなたの肩の未来を守るための最新ガイドをお届けします。
目次 | Contents
1. 五十肩は「放置してはいけない」理由:2026年の新常識
多くの人が「五十肩はいずれ自然に治る」と信じています。確かに自然軽快の傾向はありますが、近年の研究でそのリスクが浮き彫りになりました。
「数年経っても治らない」リスクの再確認
2025年のシステマティックレビュー(複数の研究を統合した信頼性の高い報告)によれば、適切な治療を受けなかった症例の20%から50%において、数年後も肩の動きの制限や痛みが残存することが示されています 。つまり、半分近い人が「完治」せず、不自由な生活を強いられ続けているのが実態なのです。
早期介入が「回復を3ヶ月早める」
最新の2024年ランダム化比較試験(RCT)では、早期に適切な医療介入を行うことで、放置した場合と比較して回復開始時期を平均3ヶ月早められることが証明されました 。痛みで仕事や家事に支障が出ている方にとって、この「3ヶ月」の差は生活の質(QOL)を大きく左右します。現代の五十肩治療は、単に「待つ」のではなく「積極的に治しに行く」時代へと進化しています 。
2. あなたの肩は今どの段階?病期別の精密マネジメント
五十肩の治療で最も重要なのは、今の自分の肩が「どのステージにあるか」を見極めることです。ステージを無視した無理なリハビリは、かえって病態を悪化させるリスクがあります 。
第1期:炎症期(疼痛優位期)——「痛みを抑える」が最優先
発症から約2〜9ヶ月のこの時期は、関節の袋(関節包)に強い炎症が起き、神経が非常に過敏になっています 。
- 最新の知見:この時期に「痛みを我慢して動かす」のは厳禁です。強い刺激は炎症を悪化させることが生物学的に示されています 。
- 推奨される治療:超音波(エコー)ガイド下でのステロイド関節内注射が非常に有効です。適切な部位への注射により、平均18日で早期回復が期待できるケースもあります 。
第2期:拘縮期(硬さ優位期)——「固まった組織を広げる」
炎症が落ち着き、代わりに関節包が分厚く硬くなる(線維化)時期です 。
- ハイドロダイラテーション:生理食塩水を用いて物理的に関節の袋を膨らませる治療が、2025年のレビューで高い有効性を評価されています 。
- 物理療法の活用:深部加温(TECAR療法)や衝撃波(ESWT)を併用することで、固まった組織の柔軟性を取り戻します 。
第3期:回復期 ——「元の機能を取り戻す」
組織の再構築が進む時期です 。ここでは単なる柔軟性だけでなく、筋力強化を含めた「機能目標ベース」の運動療法が重要視されます 。
3. 2026年の注目治療:バイオロジクスとデジタルリハビリ
医療の進歩により、従来の注射や薬以外の選択肢も広がっています。
多血小板血漿(PRP)療法の台頭
自分の血液から抽出した成分を用いるPRP療法は、2026年の最新メタ解析において、投与6ヶ月時点での疼痛緩和・機能改善でステロイド注射を上回る成果を出しています 。特に糖尿病をお持ちでステロイドが使いにくい患者様にとって、安全性の高い有力な選択肢となりつつあります 。
デジタル療法による手術回避
ウェアラブルセンサーやアプリを活用した「遠隔リハビリテーション」も普及しています。研究によれば、これらを活用することで12ヶ月以内の手術移行リスクを58%も低減できることが示唆されています 。
よくある質問(Q&A)
A. はい、事実です。糖尿病患者様の五十肩有病率は10-36%と非常に高く、糖化最終産物(AGEs)がコラーゲン構造を変化させるため、一般の方より難治化・長期化しやすいことが分かっています 。より慎重で専門的な管理が必要です。
A. 早期の五十肩において、飲み薬単独の効果は理学療法などと比較して明確な優位性が示されていません 。痛みを一時的に和らげる効果はありますが、関節の「固まり」を根本から解決するには、注射や専門的な運動療法の併用が推奨されます 。
A. 炎症期(第1期)においては間違いです。強いストレッチは炎症を悪化させ、回復を遅らせる恐れがあります 。ただし、炎症が落ち着いた「拘縮期」では、段階的に強度を上げたモビライゼーションが有効な場合もあります 。自己判断せず、専門家の指導を受けることが重要です。
まとめ
2026年、五十肩は「いつか治るのを待つ病気」から「科学的根拠に基づいて早期に治す病気」へと変わりました。放置することで数年にわたる機能障害を残すリスクを避け、適切な時期に適切な介入を行うことが、あなたの快適な日常を取り戻す最短ルートです 。
【医学的エビデンスの位置づけ】
- 病期別マネジメントの有効性: ★★★★★(レベルA:確実)
- ステロイド注射による短期疼痛緩和: ★★★★★
- PRP療法の長期的有効性: ★★★★☆(有望だが標準治療確立中)
- デジタルリハビリの手術回避効果: ★★★★☆
- 放置(Supervised Neglect)の推奨度: ★☆☆☆☆(現在は積極的介入を推奨)
8. 参考文献
- Berner, J., et al.(2024). Pharmacological interventions for early-stage frozen shoulder. Rheumatology (Oxford, England), 63, 3221-3233.
- Zhang, J., et al. (2020).Comparative Efficacy and Patient-Specific Moderating Factors of Nonsurgical Treatment Strategies for Frozen Shoulder. AJSM, 49, 1669-1679.
- Kelley, M., et al.(2009). Frozen shoulder: evidence and a proposed model guiding rehabilitation. JOSPT, 39, 135-148.
- Maund, E., et al. (2012).Management of frozen shoulder: a systematic review and cost-effectiveness analysis. Health Technology Assessment, 16.







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